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2005年 11月 25日
乙姫のことはちょっとは気になったが、そのまま勇人とのデートの約束があったのでボクは急いで待ち合わせ場所へ向かう。既に勇人は待ち合わせ場所に待っていて、「遅いぞ」とか言っていたが、いつもボクが待たされているので文句を言われる権利はない。 今日のデートコースは映画らしく、ボクは公開されたばかりの「機動戦士ZガンダムⅡ 恋人たち」に連れて行かれる。勇人の奢りなので文句は言えないが、本人の趣味全開のデートコースは本当に彼女ができたとしたら完全に引かれるぞ…。<ちなみにボクはTV版のZガンダムを観ていない。 とはいえ、結構カップルの人がいるなぁ。一応「恋人たち」というタイトルだし、ちゃんとしたラブストーリーなのかな。 …と思っていた僕が甘かった…。何か場面転換がいっぱいあって、正直よくわからなかったよ…。勇人は「フォウの扱いが…。」とか「サラの存在が…。」みたいな感想を色々言っていたが、ボクは相打ちを打つだけに留める。「わからない」とでも言ったら最後、朝まであいつの家でZガンダムのDVDを一話から見せられるに決まっているんだ。本人の解説付きで。 映画のあとは昼食を摂り、午後から美術館に連れて行かれた。 「へぇ、お前にしては中々芸術的なデートコースじゃないか。」 「何を言っている。俺が行くのはガンダムの展覧会に決まっているじゃないか。」 …勇人を少しでも見直したボクがバカだったよ…。 そんなこんなで夕食を奢ってもらった後、ボクと勇人は別々に帰ることとなった。ボクは実家に戻り、ハル姉に昨日借りた多摩女の制服を返さなければいけなかったからだ。 陽はもうとっくに暮れていたが、ボクは別段気にせず一人で夜道を歩いていく。確かに実家までの道は人通りが少なく、照明もあまりない暗い道だが、小さな頃からいつも通っていた道だ。「チカン注意」の看板も目に入ることはない。そう、自分が男(の姿)でないことを、ボクは目の前にマスクをした男が現れるまで失念していた。 「大人しくしろ。」 男はくぐもった声で威嚇をした。なぜだろう…ボクはこの声をどこかで聞いたことがあるような気がした。が、思い出せないので、ボクは少し考え、中学までやっていた空手の構えをする。逆にそれが大人しくしないことへの意思表明になってしまったわけだが。 この道は夜になると滅多に人は通らない。近くに民家もない。大きな声を出して助けを呼んでも無駄だろう。走って逃げるにしても少し長めのスカート姿にブーツでは、ジーンズにスニーカー相手に逃げ切れる自信がない。背も脚の長さも相手の方が上だし。 一番の解決策はボクが男であることをバラすことだけど…相手の声をボクが知っている(誰かはわからないけれど)というのが気にかかる。こっちが相手の声を知っているってことは、あっちもボクの本当の姿を知っていると考えた方が無難だからだ。考えたくないことだが、もしクラスの誰かだとしたら自分の姿を晒すことは自殺行為に近い。相手のマスクを剥がすことができれば、向こうの弱みも握れるため何とかなるかもしれないが…。 つまりは戦うしかない…という結論に達したわけで、ボクが何の勝算もなく空手の構えをしたわけじゃない。向こうはこっちを女と思っているからある程度甘く見ていると思うし。 マスク男は動いてこない。こちらの様子を見ているか、こっちの攻撃を受けてやろう(そして捕まえてやろう)という考えなのだろう。ならばこちらからいくまでだ。 「やあっ!」 掛け声を上げてボクは相手の鳩尾に正拳突きを叩き込む。男はボクを女だと思って侮っているのか、全く防御もせずにその右の拳を腹に受ける。ここまでは思った通りだった。問題はそこから先。 「まぁ、女の子の力じゃここまでかな。」 とか言ってまるで効いていない。マジか!?少なくとも中学時代まで空手をやっていた“男”の拳だ。普通の人間なら効いていないはずがない。 …としたら、余程身体を鍛えているのだろう。それは腹筋の硬さを見てもわかる。 …となると、知っている人間の人数は限られてくる。自分の周りで格闘技かスポーツをやっていて、こんなことをしそうな人間(男)は…。 だめだ、勇人しか思い浮かばない…(しかし少なくとも勇人ではないことはわかる。いくらボクでも、ついさっき会った人間の声を忘れるほど愚かではない)。 が、ボクの思考はそこで中断されることとなる。男がボクの右腕を捕まえたからだ。その力は強く、放そうとしても放れない。同時に男のもう一方の手がボクの胸ぐらを掴む。ボクは左手で必死にその腕をはがそうとするが、男はそんな抵抗もお構い無しにボクのブラウスを力任せに引っぱった。プチプチプチと上段三つのボタンがはじけ飛ぶ。胸元がはだけ、(姉さんたちに強引に着けられた)ブラを一瞬見られてしまった。もはやなりふり構っていられなくなったボクは、ボクの右手を掴んでいる腕に思い切り噛み付く。さすがにその攻撃は予想していなかったのか、相手が一瞬ひるんだスキを狙い、ボクは腕を振り払うと逃げるように男から離れて間合いをとる。どうせ逃げられないのでボクは再び構えをとるが、左手はボタンを取られ、はだけてしまった胸元を隠すために使われた。見られて恥ずかしいからではない。男であるのをバレることを恐れたからだ。まぁ相手にとって今のボクの格好は嗜虐性を惹起させるのに十分だったらしく、マスクからのぞく二つの目がいやらしく輝やいている。 「やれやれ、思った以上にお転婆な女の子だな…。」 そう言いながら噛まれた腕を嬉しそうにペロリと舐める姿は、見ているこちらの方が鳥肌が立つ。本人は間接キスだとか思っているのだろうか。 しかし、ここまで追い詰められてボクも覚悟は決まった。腹がダメならあまり鍛えることの出来ない頭を狙うまでだ。しかも拳ではなく一撃が重い蹴りを使うしかない。そう、スカートをはいたこの格好で。 覚悟は決まったというのはそのことだ。もはや恥ずかしいとかバレるかもしれないとかいう危惧は後だ(やはりジーンズにしておけば良かったという後悔もあることはあったが、姉さん達のコーディネイトにケチをつける勇気をボクは持っていない)。さっきも言ったが、もはやなりふり構って入られない状況に陥っているのは自分でもわかる。 「たぁーっ!」 という掛け声と共に、ボクは男の前で脚を振り上げる。もちろんそんなことをすればスカートの中は見られてしまうわけで…。男の両目はボクのスカートの中に釘付けとなる(ちなみに下も姉達のお気に入りをはかされている)。しかもおあつらえ向きに少し頭を下げてきた。気持ちはわかる、それは男のサガだからだ。が、そんなことに同情するほどボクはお人よしではない。貰ったチャンスは大事に使わせてもらう。ボクは振り上げた脚を勢いをつけて思い切り振り下ろす。ボコッという鈍い音がして、ブーツのかかとが男の後頭部にヒットした。 「うっ…。」 といううめき声を上げて、マスクの男は前のめりになって倒れた。 (今だ!) ボクは一目散にその場を逃げ出す。追い討ちをかけようとか、マスクを剥がしてやろうとかも一瞬考えたが、男がまた起き上がってきそうだったので慌ててその場から離れることを優先したんだ。だから…。 「俺を地面に這わせる女がいたとは…。惚れたぜ…。」 という男の言葉を、ボクは聞くことはなかったんだ…。 実家に帰った僕は、姉さんたちに、借りたブラウスのボタンを無くしたことで酷く怒られたが、僕が痴漢に襲われた旨を説明すると大笑いして許してくれた。こういう人たちだ。姉たちというものは。 「へぇ、あの後そんなことがあったのか…。」 次の日の学校で、勇人はニヤニヤしながら僕の話を聞いている。人の不幸を本当に楽しそうに聞く奴だ。こいつも。 そんなことを教室の窓際で話していた僕たちは、廊下がやけに騒がしいことに気がついた。 「やぁ、勇人はいるかい?」 クラスの女子たちをかき分けて、一人の男が教室に入ってくる。ウチのクラスの生徒じゃない。あの人は…。 「宇都宮先輩じゃないですか。どうしたんですか?乙姫なら向こうにいますよ。」 宇都宮鋭士(うつのみや・えいし)。勇人のサッカー部のキャプテンで、乙姫の兄だ。二年でサッカー部のキャプテンを任されるほどのサッカー・センスと、乙姫の兄らしく形の整った容姿を持っているため、学校内でも女子の人気は高い。時々僕も勇人やユキ姉に用事があってサッカー部を訪れるため、何回か話したことはある。 「いや、今日は乙姫じゃなくて勇人に会いに来たんだ。勇人、オレにも千里さんを紹介してくれないか?」 勇人は僕をちらっと見てから、 「な、何で俺が自分の彼女を先輩に紹介しなければいけないんですか?」 「いや、やましい気持ちはない。ただちょっと、少し彼女とゆっくり話がしたいだけなんだ。」 「…それって…モロ、デートの誘いじゃないですか。」 「そ、そんなつもりではなくて…。」 二人の会話はまだ続いている。周りにいる女子達は二人の話を聞いて、「サッカー部の美形選手二人が、一人の女性を巡って対立している」という少女マンガ的展開を妄想して騒いでいる。僕は頭が痛くなる。これ以上千里の噂が広まるのは勘弁してもらいたい。 …そんな僕たちを悔しそうな瞳で見つめる乙姫。 「ううっ…。お兄さままで陥落させるとは…。千里、覚えておきなさいよ。絶対に酷い目に遭わせてあげるんだから…。」 が、酷い目に遭うのは自分自身であることに…乙姫も僕らも今は誰も予想してはいなかったんだ…。 next act.5「さらわれた乙姫」
by mugenkannote
| 2005-11-25 23:38
| ボク僕
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