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2006年 02月 04日
日比谷進(ひびや・しん)という男がいた。
僕たちよりひとつ上の先輩で、中学の頃、空手部で「何でもありなら最強」と言われていた男だ。何故そういう前置きがつくかというと、公式戦では反則ばかりでいつも負けていたから。それほど気性の激しい先輩だった。そして強い先輩だった。僕と勇人二人がかりでも敵わない先輩だった。そして…女癖の悪い先輩だった。 ある日、僕と勇人は同年代の少女が日比谷先輩に絡まれている(という言葉では優しすぎる状況ではあったが)ところを目撃した。しかし、僕らの力だけではどうにもならない。 …だから僕らは通報した。 現行犯で捕まった日比谷先輩に弁明の余地はなかった。が、未遂ということや、相手の女性の両親が公にすることを恐れたため、起訴されることはなかった。他にも余罪はあっただろうに…。 しかしこれにより先輩は保護観察処分となり、空手部も退部させられた。 それから二年…。 彼がまだ、僕たちを恨み、復讐しようとしていたことを僕らは知ることになるんだ…。 「よう、どうしたんだ?」 放課後、教室に一人残り、ガラにもなく真剣な表情で手紙を読んでいた勇人に、僕はそう声をかけた。 僕の声を聞いた勇人は、一瞬驚いた顔をして僕を見ると、やがて安堵したように笑みを見せる。 「いや、ただのイタズラらしい。」 そう言って、僕に今まで読んでいた手紙を渡す。 「この手紙…日比谷先輩からじゃないか!?」 そこに書かれていたものは、おおまかに説明すると「お前(勇人)の彼女を預かっている。返して欲しければ、相模川沿いにある倉庫地域の○○号倉庫に来い」という脅迫状だった。 「勇人の彼女…?」 それはここにいる(自分で肯定するのも嫌だが、勇人の彼女として一番に連想されるのは僕だろう)。 「だからただのイタズラらしいと言ったんだ。」 それで話は終わるはずだった。その手紙を破り、ごみ箱に捨てれば全てが終わると。すぐにその後、宇都宮先輩が来るまでは。 「おい、乙姫がどこにもいないんだ!お前たち、何か心当たりはないか!?」 こうして僕と勇人、そして宇都宮先輩の三人は○○号倉庫にやってくることになる。 乙姫は結局あの後も、僕のアパートの近くにちょくちょく来ていたらしい。僕の隣の部屋は勇人の部屋だから、日比谷先輩や子分連中が乙姫を勇人の彼女と誤解したのだろう。彼女(と宇都宮先輩)を巻き込んでしまったのは申し訳ないが、ちょっと自業自得のような気もする。とはいえ、僕らが蒔いた種は刈り取らなければならない。乙姫を助けるため、勇人は倉庫へ行くことを決め、彼女の兄である宇都宮先輩ももちろん同行する。勇人宛の手紙とはいえ、僕も関係ないわけではない。自分もついていこうとしたが…。 「お前は残って待っていてくれ。あまり大事にはしたくないが、俺たちが戻ってこなかったら警察に連絡して欲しいから。」 と勇人は言った。 「待てよ、僕だって…。」 「その代わり…。」 僕の機先を制して、勇人は言葉を続ける。 「強力な助っ人を頼んである。」 その助っ人とは…。 「いいのか?彼女をこんなところに連れてきて…。」 宇都宮先輩が心配そうにボクをチラチラと見る。 「彼女は強いですよ。見た目以上に。」 「ああ、それはわかっている。」 「え?」 「い、いや、何でもない…。よろしくお願いしますね、千里(ちさと)さん。」 「は、はい、ボクの代わりに捕まってしまったのですもの。絶対に乙姫さんを助けましょうね、宇都宮さん。」 ボクはこわばった笑顔を宇都宮先輩に見せる。 「ああ、俺のことは鋭士と呼んでください。千里さん。」 「は、はぁ…。」 つまり勇人の言う助っ人とは、女の格好をしたボク自身のことなのである。 「おいっ…。」 ボクは宇都宮先輩に聞こえない程度の小声で、勇人に詰め寄る。 「何でボクがこんな格好をしなければいけないんだよっ!」 ロングヘアのかつらをつけ、化粧をし、女性ものの服を着て殴りこみ(?)に行く男など見た事がない。一応この前の教訓を生かし、スカートではなく動きやすいキュロット・デニムをはいているけれど…(本当はジーンズにしたかったが、勇人曰く、「生足を見せていた方が効果的」らしい)。 「じゃあ聞くが…。」 勇人はボクが女装するのはさも当たり前のような口ぶりで質問をする。 「お前は俺より空手の技やスピードがあると思っているか?」 「うっ…。」 ボクは口ごもる。確かに空手部にいた頃、ボクは勇人に勝ったことはなかった。 「それは…ない…。」 「なら、宇都宮先輩よりパワーやタフさがお前にあるか?」 「それも…ない…。」 それは見ただけでわかる。宇都宮先輩の体格の良さと、ボクの女ものの服を着たら女にしか見えないような貧弱な体格では比較にもならない。 「わかっただろ、つまりお前は足手まといにしかならないんだよ。」 「なっ…。少なくともボクは空手をやっていて…。」 「でもな、お前には俺たちにはない才能を持っているんだ。俺たちがいくら頑張っても敵わないような才能がな。」 「才能…?」 「そう、それがこの美少女顔だよ。」 そう言って勇人は両手でボクの顔を左右に引っぱる。 「おえはおめていうおか…?(それは褒めているのか?)」 「当たり前だ。いいか?男はどうしても女と戦うことになると手加減してしまう。本気でやったとしても、実際は全力の八割程度しか出せないんだ。」 「それは…あるかも…。」 空手をやっていたボクだが、未だに姉さんたちに勝てたためしがない。 「まぁ、それでも普通の女の子の力では、八割の力の男にも敵わないわけだが…お前は違う。 お前は顔は女顔だがれっきとした男だし、空手をやっていたんだから普通の男よりは強い。つまり同格の男との戦いでも、向こうが80%の実力しか出せないのに対し、お前は100%の力を発揮できるんだよ。このアドバンテージはでかいぜ。」 「それって…ちょっと卑怯じゃないか?」 「向こうは人質を取っているんだ。その時点で正々堂々なんてルールはねぇよ。」 そうだ。日比谷先輩は「何でもありなら最強」。そして既に何でもありなことをしてきた。ならこちらも手段を選んでいる場合ではないだろう。 倉庫前にはもう、日比谷先輩の手下と思われるガラの悪そうな奴らが何人もたむろしていた。 「いくぞ、俺と宇都宮先輩でこいつらの注意を引くから、お前は一直線に倉庫へ向かえ。先手必勝、有無を言わさず乙姫を取り戻して来い。」 「わかった。」 勇人たちは雄叫びを上げて突っ込んでいく。ボクはその後から作られた道を全力で走り、倉庫の扉を開ける。 ガラガラガラ…。 倉庫の中は薄暗い。 「誰だ、お前は…。」 日比谷先輩の声だ。声が聞こえた暗闇から、ゆっくりと日比谷先輩が浮かび上がってくる。そしてその隣には…。 「うーっ…。」 ロープで縛られ、猿ぐつわを噛まれた乙姫がうずくまっていたんだ…。 next act.6「さらわれた乙姫」(後編)
by mugenkannote
| 2006-02-04 08:59
| ボク僕
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